己
HN:
雛
性別:
非公開
自己紹介:
ship:3(ソーン)
ID=雛櫻
キャラ名:十六夜・蓮華
所属チーム:IRIS-イーリス-
メインクラス:ガンナー
一言:自己中です(*'ω'*)
ID=雛櫻
キャラ名:十六夜・蓮華
所属チーム:IRIS-イーリス-
メインクラス:ガンナー
一言:自己中です(*'ω'*)
輪
「――あなたは、誰?」
二人の少女が謳う、絆の物語。
勝手にイメージソング=『clover』:meg rock
前編:読みに行く
中編:読みに行く
後編:ここ
ALL:
pixiv:読みに行く
《前書き》
どう読み返しても、“エピローグ”とは違ったので、前中後の三編に変えました。
元よりそもそもエピローグという概念は考えてなかったのですよね、短編ですし。
さて、後編は前編と中編の補足と茶番です。
特に茶番ってセンスがもろ解っちゃうよね(ノД`)・゜・。
ありきたりな物を書かせて頂きましたよ、それはもう(´・ω・`)ドヤア
なんにせよ、『U&I』の最後まで読んで頂ければ幸いでございます。
二人の少女が謳う、絆の物語。
勝手にイメージソング=『clover』:meg rock
前編:読みに行く
中編:読みに行く
後編:ここ
ALL:
pixiv:読みに行く
《前書き》
どう読み返しても、“エピローグ”とは違ったので、前中後の三編に変えました。
元よりそもそもエピローグという概念は考えてなかったのですよね、短編ですし。
さて、後編は前編と中編の補足と茶番です。
特に茶番ってセンスがもろ解っちゃうよね(ノД`)・゜・。
ありきたりな物を書かせて頂きましたよ、それはもう(´・ω・`)ドヤア
なんにせよ、『U&I』の最後まで読んで頂ければ幸いでございます。
PR
陽気なBGMが繰り返し流れる広いルームに、少女は居た。
他に誰の姿も見えない。最大で百人が収容できると謳われるこのルームで、隅に設置されたバーカウンターに腰掛け佇んでいる少女の姿は、より寂しさを際立てる。
「――はぁ……」
ふと、少女が溜め息を吐く。光景が示す通り、その表情は浮かない。肩から垂れ下がってきた尻尾を指に巻き付かせながら、イーリスは一人耽る。
ギルの通信を受け、揚々とナベリウスに向かったはいいが、肝心のタガミカヅチには逃げられてしまったらしい。とは言っても、ソレ自体は然程問題ではない。
問題なのは、その後。
ギル達はルベルトの依頼を続行するので分かれる事になったが、まさか、自分達もそうなる事になるとは思ってもいなかった。
折角出てきたのだから、このまま奥まで探索して帰ろうというイーリスの提案を、プルミエールは拒否した。予想だにしていなかった答え。
元々、プルミエールは目的や意にそぐわないからといって、そういった提案を蹴るタイプではない。仮にそうするのであれば、自身が他に何か事情を抱えている場合。
――ごめん、ちょっと用事ができちゃって。
現に、彼女はそう告げた。だからこそ、余計に胸が痛む。
手伝うと打診した言葉にさえ、プルミエールは首を横に振った。食い下がろうとするイーリスに、彼女が浮かべた表情は困却。故に、ソレ以上の追求を止めた。
納得はできなかったが、そうする振りをする事にしたのは、プルミエールのそんな表情を見たくなかったからだ。
とはいえ、彼女は合流した際にギルと何かを話していた。ユノに気を取られている自分に、まるで聞かれまいとするかのように。
ソレが、余計にイーリスを苦しめる。
強い疎外感。
確かに、未だ付き合いを持ってそう永い時間とは云えないかもしれない。しかし、そんな事は問題ではないのだと教えてくれもした。特にプルミエールは一際強く――だ。
だからこそ、哀しい。寂しい。
我が儘な感情だとは想うが、理解したくないという葛藤に苛まれ、イーリスはテーブルに突っ伏した。誰もいない部屋で、誰からもその表情を見られないようにする為に。
そうして間も無く――。
「たっだいまー」
扉が開かれ、ソコからよく知る調子の声が響く。勢いよく顔を上げたイーリスが捉えたのは、ユノと伴に帰還し、自分を見つけるなり駆け寄ってくるプルミエール。
そんな彼女の姿が、抱えていた葛藤を吹き飛ばす。
「――お帰りなさい、プルちゃん」
単純なものだと、刹那の間に自笑して、イーリスは応えた。
しかし、顔を見合わせた瞬間、イーリスは確かに抱いた。
プルミエールの顔に浮かぶ、何か。言葉にするには適切な表現が見つけられない程の、云ってしまえば無いにも等しい違和感。
だからこそ、声に出してしまったのかもしれない。
「……何かあった? プルちゃん」
「――ほえっ!?」
驚愕に声を上げたプルミエールではあるが、遅れて二人の背後に着いたユノもまたそうし掛けた。
ココに戻るまでに、二人で何度も入念に確認し合った。ユノからすれば、プルミエールのその際の様は執拗過ぎるとも云えた程だ。
ソレを、容易く看破された。
「えと、えと~」
想定だにしていなかった事態に、言い訳すらも出てこないプルミエールは、横目でユノに助けを促す。
首を傾げるイーリスという岸へ向かう為、海原で佇むプルミエールに向けてユノが出した助け舟は――。
「この子ったらね、イーリスの買ってきたケーキを勝手に食べちゃったから、どうしようって泣きついてきたのよ」
「~~~~はわっ!?」
搭乗者を無防備に晒す、筏(いかだ)だった。
「……へ?」
ユノの言葉で、軽くプルミエールの顔を覗き込むイーリス。対象の少女の眼は、焦点を合わせる事なく慌しく泳いでいる。
そのまま、無言でプルミエールに背を向けると、カウンター側のクーラーボックスに歩を進める。その後ろ姿に、プルミエールが声の無い叫びを上げるが、ソレが気付かれる事はなかった。
そして、クーラーボックスからケーキの入った箱を取り出すと、イーリスは躊躇無くソレを開けた。
「……プルちゃん?」
視線を箱の中に向けたまま、イーリスが漏らすように口を開く。だが、プルミエールが応える様子はない。
彼女は、無言でユノの袖を引き訴えていた。
そんな少女に構う素振りは見せずに、イーリスは再び声を放つ。
「プルちゃん?」
「――は、はいっ!?」
今度は、顔を上げその眼を真っ直ぐにプルミエールに向けて。
躰を大きく震わさせて、ゆっくりと眼を自身を呼ぶ声の方へ向ける。同時に躰をユノの背に隠し、ソコから覗き込むように。
「もう! なんで勝手に食べちゃうの!?」
「お、お腹空いてたから……」
「だからって、四つも食べる事ないでしょ! 折角みんなで食べようと思ったのに」
「~~~~ごめんなさい……って、え?」
「――なに?」
言葉を投げられる度に、徐々にユノの背に深く潜り込んでいたプルミエールが、ふと首を傾げた。
背中越しに視るイーリスは、頬を膨らませ尚も自分を睨み付けている。何とも云い難い恐怖は更に強まるが、プルミエールは意を決し、恐る恐る言葉を紡いだ。
イーリスの言葉の中に在った疑惑。
「わ、わたし一個しか食べて……ないよ?」
「……へ?」
プルミエールの怯えた言葉に、イーリスは再びケーキの箱に視線を戻す。その中には、確かにショートケーキが一つだけ寂しげに、けれども空間を広々と有し堂々と存在している。
イーリスが購入したのは五つ。丁度、【ルシエル】のメンバーの人数分。箱の側面に貼り付けられた領収書にも、ちゃんと五つ分が記されている。
少女が二人、合わせるかのように首を傾げる。
そこへ――。
「なんだ、騒がしいな」
ギルとカイトが帰還してきた。
先に場に居た三人が見せる、普段とは違う様子に眼をやりながらギルが云う。
「――あ、お帰りなさい」
「ああ、ただいま。……さっきは済まなかったな。折角足を運んできてもらったというのに」
「いえ、レア種なんですから仕方ないですよ。気にしないで下さい」
「そうか。ありがと……う……」
そのやり取りの中で、ギルが見せた不審な挙動。
確かにカウンターの上でイーリスが手にする箱を捉えたその眼を、まるで逃げるように泳がせた。そして何故か、バーカウンター側の座席にではなく、反対側の、距離が開く法の座席へと着こうとする。
そんなギルに向けて、ユノが銛を放つ。
「ねえ、ギル」
「……なんだ?」
「――頬っぺた、生クリーム付いてるわよ?」
「~~~~な、なにっ!?」
ソレは、見事に獲物を撃ち抜く事に成功した。
古典的な嘘(ブラフ)にまんまと掛かったギルは、慌てふためきながら両の頬を服の袖で拭う仕草を取る。その様子を、周囲の四人が冷ややかな視線で見据えている。
ギルが気付いた時には、既に遅い。
「……ギルさんも食べたんですか? ケーキ」
「は、腹が減ってたので、つい……」
「プルちゃんと同じこと言わないで下さい!」
「す、すまん」
「……美味かった」
「――へ?」
普段のクールな威厳が掠れてしまう程縮こまるギルの横で、さり気なく言葉を混じらせたのはカイト。
流れに乗り、自然に自白する事で抵抗(被害)を最小限に抑え存在を象徴する様は、正に彼の名が示すもののようでもあった。
そしてソレは、思惑通りにイーリスの怒気を散らす事に成功する。少なくとも、自身に対しての――だが。
「まったく……あれ? お二人はいくつ食べたんですか?」
「一つだ」
少し和らいだイーリスの問いに、ギルとカイトが胸を張って合わせて答える。その二人の態度には関心を示さず、イーリスは再び箱の中を睨む。
自白された被害の数は三つ。だが、残っているのは一つのみ。コレでは、計算が合わない。
考えられるとすれば――。
「……」
イーリスが、ゆっくりと顔を上げ視線を送る。ソレを追うようにプルミエール・ギル・カイトの三人が見据えた先には、ユノの顔。
しかし、彼女はその四人の視線から眼を――逸らしていた。
「――お腹、減ってたんですね?」
「え、ええ……」
呆気の無い自白。その様に、イーリスの怒気は完全に何処かへと消えた。
尤も、プルミエールとギルは逆だ。寧ろ、激昂しているようにも思える程に、ユノへと詰め寄っていく。そんな三人に我関せずといった態度で、或る意味唯一の勝者であろうカイトは、最寄りの座席に腰掛けると、その様子を眺める事に徹する。
肝心のイーリスも、四人の様子を他所にケーキを皿に移し替えお茶の用意を黙々と進めていく。
その時だ。
管理官のコフィーから、恐らくはアークス全員に対し連絡事項が届く。【ルシエル】の五人も、それぞれの動きを止め、すぐにソレを確認する。
内容は――アークス模倣体に因る被害報告。
コレまで報されていた被害は、模倣体との接触と同時に戦闘行為に発展。若しくは、ソレにすら至らないままでの、出会い頭の攻撃。
だが、現在五人が眼を通している通達に記された内容は違う。
ソコには、模倣体がアークスと接触時に、攻撃ではなく或る種のコミュニケーションを取るとある。それはまるで、本人であるかのように。そして、完全に気を抜いたところを襲われるという被害が続出しているとの事だった。
この行動への見解は、未だ調査中との記述であるが、予測される事項も記されていた。
自身(模倣元)の記憶からだけではなく、他者からの言葉や行動。そして記憶を介し情報を得ようとしているのではないか。といった具合だ。
この仮説が当たっていたとすれば、相当に脅威である。下手をすれば、模倣体をアークスシップ内に招く事にも繋がりかねないのだから。
「――ねえ、イーリスちゃん」
ふと、コンソール端末から眼を放したプルミエールが、カウンターのイーリスに声を掛ける。先程までの、怯える様子は勿論見えない。
唯、不安は感じられた。言葉を紡ぐ事へになのか、それとも、そうした際に返ってくるであろう答えになのか。恐らくは、本人も気付いていない心境。
そうして、首を傾げるイーリスに対し、プルミエールは言葉を紡いだ。
「わたしの模倣体と遭ったら、イーリスちゃんは……どうする?」
――どうする?
余りにも曖昧な問い。倒すか見逃すかというか。それとも、ソレに至るまでの事なのか。言葉だけでは判断に詰まる問い。けれど、プルミエールは口を閉じる。これ以外の表現を持たないかのように。
ナベリウスでギルの言葉を耳にした際、彼女は直ぐに決意した。
友人の手が、他の誰かを傷付ける事などさせない。そして、自分以外の誰かにも、攻撃させない――と。
「ん~。いざ遭ってみないとちょっと想像できないけど……」
プルミエールの言葉の意図を理解しているのか、していないのか。やがて、イーリスは口を開いた。
まるで、自分を見据える少女をあやすように笑って。
「――プルちゃんの偽物? なら私、判ると想うんだよね」
その言葉が、プルミエールの望んでいたものなのかは、恐らくは本人さえも判らない。しかし、充分だった。
大事なのは、言葉よりもその笑顔に籠められた想い。護りたいと願った(ちかった)、大切な友人の想い。
「そっか」
プルミエールはそう笑い返すと、イーリスの元へ駆け寄っていく。ソレはもう、誰もが識る普段の彼女の姿。
イーリスの横に腰掛け、彼女がフォークに刺したケーキを、口を開けてせがむ。そんな二人を、自然と笑みを浮かべながら三人は眺めている。
彼女達が手にする大切な人との日常が、今日もこうして訪れ、過ぎていく――。
《後書き》
今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございます(*´ω`*)
クローン(模倣体)との対峙と、その少女の心境を描いた今作ですが、如何だったでしょうか?
元々は王道っぽく、主人公に模倣体を叩いてもらおうとプロットを立ててたんですが、
途中で逆にした方が面白い&自身の好みだという事に成り、変更しました。
今作は読み手の心理状態というかイメージを予想して、引っ掛けじみたものを書いてみました。
中編の模倣体との戦闘が正にそうですね。
幾つか「引っ掛かった」という言葉も貰えたので、満足してますが、一応さり気なく本物には
あるキーワードを語らせて判るようにはしたつもりです。
さて、よくある「友人・恋人を攻撃できるか」という問題に対し、
「できない」と答えるキャラよりも、「できる」と答えるキャラの方が好きです。
ソコから更に、「外見で判断なんかしてない」ときっぱり割り切れるタイプよりも、
そうは言いつつも「内心はぐちゃぐちゃな心境で押し殺して攻撃する」タイプが好みです。
今回で云う、プルミエールがそうです。
そのせいで、今作では完全に彼女が主人公です、本当にありがとうございました。
バトルものである、燃える戦いとかってあるじゃないですか。
ライバル同士の戦いだったり、強敵との長期に亘る戦いだったり。
私は、ソレよりも初めから仲間だった、
“戦う事が予想できない者同士の戦い”が、一番燃えたりします。
DBでいうなら、クリリン&悟空VSジャッキーチュン(亀仙人)の師弟対決や、
クリリンVS悟空みたいな。
まあ、2作目でしかも別にバトルものを目指してるわけでもないのに何してるんだって話ですがねw
なんにせよ、クローンなら“アプダクション”があるじゃないかという声があるでしょうが、
アレを基に私が書いたらどうなるかなんて、もう予想は付きますよね……。
なんというか、著者の特権らしく、書きたいものを書いたっていう作品です。
では、また次回が在るならば、その時はよろしくです(*´ω`*)
繰り返しになりますが、最後まで読んで頂き、ありがとうございました♪
from:雛
《後書き》
今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございます(*´ω`*)
クローン(模倣体)との対峙と、その少女の心境を描いた今作ですが、如何だったでしょうか?
元々は王道っぽく、主人公に模倣体を叩いてもらおうとプロットを立ててたんですが、
途中で逆にした方が面白い&自身の好みだという事に成り、変更しました。
今作は読み手の心理状態というかイメージを予想して、引っ掛けじみたものを書いてみました。
中編の模倣体との戦闘が正にそうですね。
幾つか「引っ掛かった」という言葉も貰えたので、満足してますが、一応さり気なく本物には
あるキーワードを語らせて判るようにはしたつもりです。
さて、よくある「友人・恋人を攻撃できるか」という問題に対し、
「できない」と答えるキャラよりも、「できる」と答えるキャラの方が好きです。
ソコから更に、「外見で判断なんかしてない」ときっぱり割り切れるタイプよりも、
そうは言いつつも「内心はぐちゃぐちゃな心境で押し殺して攻撃する」タイプが好みです。
今回で云う、プルミエールがそうです。
そのせいで、今作では完全に彼女が主人公です、本当にありがとうございました。
バトルものである、燃える戦いとかってあるじゃないですか。
ライバル同士の戦いだったり、強敵との長期に亘る戦いだったり。
私は、ソレよりも初めから仲間だった、
“戦う事が予想できない者同士の戦い”が、一番燃えたりします。
DBでいうなら、クリリン&悟空VSジャッキーチュン(亀仙人)の師弟対決や、
クリリンVS悟空みたいな。
まあ、2作目でしかも別にバトルものを目指してるわけでもないのに何してるんだって話ですがねw
なんにせよ、クローンなら“アプダクション”があるじゃないかという声があるでしょうが、
アレを基に私が書いたらどうなるかなんて、もう予想は付きますよね……。
なんというか、著者の特権らしく、書きたいものを書いたっていう作品です。
では、また次回が在るならば、その時はよろしくです(*´ω`*)
繰り返しになりますが、最後まで読んで頂き、ありがとうございました♪
from:雛
「ーーあなたは、誰?」
中編:ここ
後編:まだ
ALL:まだ
《前書き》
《前書き》
いや、まさかエピローグを分ける羽目になるとは思わなんだw
ホントに、前後編で終わらせる気だったんだよ、(`・ω・´)ホントダヨ
まあ、とにかく後編に関しては、あまり語る事が無いのですよねー。
無いというよりも、エピローグ後の『あとがき』で触れた方がいいかなと思ってます。
ともあれ、好きなシチュエーションで自分でも気に入った戦闘場面(描写)を書けました。
あとは、読んでくれた人も気に入ってくれると、なお嬉しいですね(*´ω`*)
「……何がそんなに可笑しいの?」
イーリスが問う。目の前の、豹変した少女に対して。
外見は勿論、声も彼女が識るプルミエールそのものだ。現在見せている姿でさえ、何処かしら子供っぽさを残す彼女からすれば、理解できる範囲ではある。
だが、ここまでの――狂気を纏った彼女を、イーリスは知らない。だからこそ、問う事で誤魔化した。
気圧されているという事実を。
「――っはははっ! や~ごめんごめん……っくく。こうまでできるとは、流石に予想してなかったからさ」
込み上げる笑いを無理矢理閉じながら、プルミエールが答える。
尤も、その回答をイーリスは理解できなかった。故に、再び問う。少しでも自身が落ち着きを取り戻す時間を稼ぐ為に。
「だから、何をいっ――」
「――黙れ」
ソレを、プルミエールが一蹴する。
同時に、木々がより激しく騒ぎ出した。イーリス同様に、プルミエールがフォトンを開放したせいだ。二人の見えないフォトンの衝突に因る衝撃と、より一層深まった場の空気に、まるで怯えるかのように木々が大きく鳴く。
二度目の豹変。
コレも、イーリスが知らない少女の姿。こうまであからさまな殺意を向けるプルミエールを、イーリスは知らない。
「あんたとこれ以上問答をする気は無いよ」
長銃から双機銃へと装備を切り替え、プルミエールが尚も暗い声で続けた。
圧倒的な威圧感。普段を識る者の誰ならば、眼の前の少女の現状を理解できるのか。寧ろ、イーリスには疑心の方が当然のように強く根付く。
――本当に、プルミエールなのか。
隙を見せれば直ぐにでも頭部を撃ち抜かれそうな、眼光。恐怖と同時に、尚もプルミエールに対し抱く疑心。ソレを完全に払えないまま、イーリスはようやく本格的な構えを取る。
何故なら、既にプルミエールは動き始めたからだ。
言葉の通りに、言葉ではなく躰での衝突へと移行した。微塵の躊躇すらも無いその動きは、素直に称賛すらも抱かせたが、イーリスにとってソレは雑念でしかない。
まるで倣うかのように、プルミエールにコンマ単位遅れて、イーリスが動いた。
相手は長銃から射程の劣る双機銃へと切り替えた。故に、その差を埋める為の距離を詰めなければならない。対し、自身の武器は大剣。攻撃の敏捷こそ勝負にはならないが、ソレに至るまで行動ならば、話は別だ。
駆けて距離を詰めようとするプルミエールに対し、イーリスは慣れ親しんだ足運びを見せる。
地を駆けるように跳ぶ、ステップ。歩数を補うだけの充分な機動力で、イーリスは距離を詰めに掛かる。
理屈上、このままではプルミエールの方が先に適性射程距離に入る。しかし、イーリスには充分な勝算が在った。
その武器の性質上、射程に入った瞬間に、プルミエールは必ず一瞬動きを止めなければならない。反してイーリスは、このステップ動作中からでも剣を振るう事ができる。機動力に加え武器のリーチも味方し、その瞬間には、イーリスにとっても適性距離に入る。
一撃では倒しはできない。ソレでも、崩しはできる。あとは、そこから叩き込めばいい。
「――っ!?」
そう思惑を抱き、事態がその通りに動いたと思った刹那。
イーリスに、予想だにしなかった誤算が襲い掛かった。
一瞬、プルミエールは確かに動きを止めた。ソレはイーリスが狙っていたチャンスの瞬間。だが、プルミエールはソコから二人の距離を零にしてみせた。
イーリスのステップ以上の機動力。加え、この距離では剣の動きを活かせない。対するプルミエールの双機銃は違う。射程内にさえ入ってしまえば、間合いが生むデメリットは僅か。何よりも、この密着状態から放たれる銃弾を避けるなど、不可能。
「――っが!?」
全神経を双機銃からの攻撃に集中させたイーリスに向けてプルミエールが放ったのは、ほぼ垂直からなる蹴撃。衣装の特性上、下着が丸見えに成る程大胆に開かれたその脚は、見事にイーリスの顎を撃ち抜いた。
プルミエールにとっても距離が近過ぎたのだろう。急所は外れた。ソレでも、意識外からのその攻撃は、対象を吹き飛ばすに充分な威力を有していた。
数瞬、意識を朦朧としたイーリスの眼が、更なる驚愕を映す。
蹴撃の際の反動を利用して宙へと跳んだプルミエールは、そのまま頭を真下へと方向転換。そして双機銃を携えた両腕を真っ直ぐに伸ばして構える。
その二つの銃口が捉える先は――。
「~~~~っく!」
吹き飛ばされたイーリスの、着地点。
経験から成るものか、生存本能に依るものか。何れにせよ素晴らしい反射神経を見せたイーリスは、未だ動き切らない躰を転がせた。
直後、轟音が響く。
声の主は、プルミエールの手に握られる双機銃。確かにイーリスの躰が在ったその場所に向けて、無数の銃弾を放った咆哮だった。
二、三回と転がり、無様とも取られるその動きの果てにイーリスが視たのは、茂っていた草花が無残に払われた爛れた大地。
反射的に、イーリスは喉を鳴らす。
想像してしまった。あのまま回避できなかった際の、あそこに横たわっていたであろう自身の姿を。
「ちぇっ。ちょっと跳び過ぎちゃったかな」
華麗に空中で姿勢を取り直し着地したプルミエールが、言葉通りの遺憾を浮かべた表情で零す。その際に軽く地面を蹴ってみせた仕草は、少女らしいと云えばそうであるが、対峙するイーリスには逆に恐ろしさを際立てた。
事実、回避の成否を分けたのは二人の間合い。そしてソレは、イーリスに依って崩されたものではなく、単純にプルミエールのミスから生まれた結果。しかし、“二人”を成していた記憶からは想像できない、容赦の無い攻撃。そして、ソレを外してしまった事を悔いる様。
一難を逃れたイーリスではあったが、眼前の少女を、敵である以上に恐れ始めていた。
「折角だからさ――」
そんな彼女の心境を識ってか、まるで揺さぶるようにプルミエールが口を開く。
慌てて構えを取り直すイーリス。ダメージは尚残るが、躰は動いてくれる。
「――あんたの弱点を教えてあげるよ」
先制の一撃を与えた事に依る余裕からなのか、悠長に言葉を紡ぐプルミエールを見据え、イーリスは構えながら静かに、確実に息を整えていく。寧ろ、こうして回復の時間を与えてくれる事は、願ってもない事であった。
先程のような、所謂奇襲じみた攻撃にさえ気を付ければ、充分に何とかできる。
そんな、自信にも似た思惑を抱いた矢先だった。
「一つ、記憶に無い事に対して順応性が低い」
「――っ!?」
またも、心境を読んだかのような発言を向けられる。
記憶に無い――ソレを指すのは、正に先程の蹴撃。
そう、イーリスは知らなかった。メインクラスをガンナーとする事は当然知っていたが、彼女が識る少女は長銃をメインに扱い、パーティーの援護役に当たる。あんな体術を組み合わせた動きをできる事など、自身が喰らうその瞬間まで、イーリスは知らなかった。
だが、ソレは――。
「ま、これは誰にでも当て嵌まる事ではあるけどね」
プルミエールが続ける。
確かにその通りだ。予測ができない事象に対して脆いのは、何もイーリスに限った事ではない。だからこそ、奇襲という策が成り立っているのだ。
ソレでも、プルミエールは紡ぐ。口撃とも呼べる言葉を、イーリスに投げ続ける。
「正確には、あんたは特に。っていうのかな。んで、二つ目の弱点は――っと!」
言葉の終点よりも迅く、プルミエールが行動に移った。
左手の機銃からに依る銃撃。何の変哲もないソレを対処する事は、難しい事ではない。しかし、心境を揺さぶられている現状のイーリスは、その対処さえも遅れる。
明らかな陽動の銃撃を、唯躱すだけの精一杯な動き。硬直の解けない状態のイーリスに、追撃が襲い掛かる。
先程、蹴撃の際に見せた接近よりも更に迅い接近。恐らくはフォトンを駆使して成る技であろう。超スピードを乗せた躰で、そのまま体当たりをする。咄嗟に構えた剣が防御に至ったのは偶然に過ぎず、体当たりを防ぐ為に取った行動ではなかった。とはいえ、プルミエールの追撃はまだ続く。
正確には、こちらが本命。再度密着した零距離からの、銃撃。剣(たて)の隙間を縫うように狙い澄ました、フォトンを凝縮した弾を撃つ。
それも、間髪おかずに二発。
体当たりの衝撃が活きている間に、ソレと差の無い衝撃を加えられ、イーリスの躰はボールのように吹き飛び、地面に転がる。
照準が大きかったせいか、構え続けられた剣に吸われ、直撃を喰らったわけではない。けれども、これ程の威力。自身が識るプルミエールの情報からは想像もできなかった、未知の攻撃の連続。
精神だけでなく、肉体にも確実にダメージを負っていた。
「~~~~がはっ!?」
しかし、ソレ以上に深刻な事態が、イーリスに降り掛かる。
「これが、二つ目の弱点」
何が起こったのか把握し切れないイーリスに、プルミエールが静かに告げる。つまりは、現状を引き越したのは彼女である事を指していた。
それでも、言葉の意味が解らない。何をされたのか……いや。何が起こっているのか。ソレすらも解らず、躰の異変は尚も嗤うように続く。
イーリスを襲っているのは、闇属性のフォトンが躰の神経を蝕みながら這いずり回る、激痛。
アークスが“ポイズン”と称する、所謂毒だ。
「高い身体能力や生命力を持つ反面、こういった状態異常に対する耐性は皆無に近い。――アークス舐め過ぎだよ、あんた」
プルミエールが、イーリス――の模倣体に向けて、言い放つ。
その言葉に、激痛から顔を歪ませながら模倣体がプルミエールを見据える。交わった少女の眼は、臆す素振りも無く真っ直ぐに自分を捉えていた。
模倣体とはいえ、ベースとなった個体の記憶を有し、感情も在る。故に、負け惜しみなどではなく、素直に称賛した。
嘗て、イーリス本人がプルミエールにそうしたように。
「なんで……こんな回りくどい事を……?」
声を絞りながら、模倣体が問う。
先程からの言動と、眼。恐らく、プルミエールが姿を現したのは偶然ではない。同じエリアに居合わせたのはそうでなかったとしても、少なくとも、自分――模倣体の生態に関し熟知した上での対面。
だからこそ解らない。
何故、対面した時に直ぐに攻撃に至らなかったのか。何故、自分を発見した時に、背後から狙い撃たなかったのか。
「問答する気は無いって言った。それとも、ダラダラと時間を稼いで自滅するのをお望みかな? ――尤も、そんな事はさせないけどね」
答える気は無いと、言葉と仕草で示してみせたプルミエールは、より強い眼光を模倣体に向けて、構えた。
ソレを向けられた当の模倣体が感じたのは、強い怒りと、言い表す表現を知らない、もう一つの感情(なにか)が混じった光。
その正体を知りたいと思う、好奇心が無かったわけではない。唯、そうする時間が無いのも事実だった。
プルミエールが云うように、時間が過ぎれば過ぎるだけ、自身の生命力は削られていく。
取るべき手は、一つ。
模倣体が、激痛を引き摺りながら構えを取る。
二人のフォトンに共鳴したのか、厚みを帯びていた雲は更に増え、いつしか雨雲となっていた。
やがて、恵みの雨とは云い難い小粒の滴が音を立てて地面を叩き出す。とはいえ、二人ともソレに気を取られる素振りは無い。
両者、機を窺っているのか、暫しの硬直が訪れる。その間に、雨足は強まっていく。
そして、模倣体を蝕む毒も同じくだ。
構えを崩す事はしなくても、何度か苦痛に顔を歪める。ソレすらも、プルミエールからすれば踏み込む隙だった。先程の言葉がまるで矛盾のように、彼女は何れのソレを放棄した。
雨が二人を叩き始める。その一粒が、プルミエールの額を打つと同時に、ゆっくりと滴り落ちていく。
その刹那、模倣体が動いた。
握る樹の大剣――カグタチにフォトンを伝い、眼前のプルミエール目掛けて振るう。
フォトンが表す通り、明確な殺意を込めて。
対するプルミエールは、直前まで動きを見せなかった。正確には、口だけが動きを取っていた。
そして、そこから放たれた言葉(こえ)を聞いたのは――。
「……あんたを許さない」
刃がプルミエールの左腹を捉えようかと思われた瞬間、彼女は華麗に左方向へ空中側転で回避した。だが、模倣体のこの攻撃はフェイント。
返す刃で、未だ着地に至らないプルミエールに向けて更に振るう。タイミング的には、避ける事も防御する事も絶対に不可能なもの。
ソレを識った模倣体の顔に、勝利を確信した笑みが浮かぶ。
その直後――いや、最中なのか。正確な表現ができない、時間間隔の矛盾が、模倣体を襲う。まるで、自分の時間だけが止まってしまったかのような、そんな圧縮感。
何故なら、その中でプルミエールは確と動いていたからだ。
いつその態勢に至ったのか。両手の銃口を模倣体に向けて伸ばしながら、飛び込んでいる。そして、そのまま銃弾を放つ。銃弾の回転まで見える、確かなスローモーションの中。自分の躰に銃弾が届くのを確と視ながらも、模倣体は動かなかった……いや。動けなかった。
尚も続く圧縮された時間の中、プルミエールの攻撃は続く。飛び込みより着地した彼女は、そのまま両腕を水平に広げ回転。二人の躰が、触れる事無く重なり、やがてすり抜けていく。
その際にプルミエールが放った銃弾の数は、実に二十。模倣体は、その全てを眼で捉えていた。自身の躰に向けて飛んでくる、一部始終を。
そして、二人の躰が完全にすれ違った際、模倣体は確かに聞いた。
「――あの子の顔で殺意(ソレ)を振り撒くあんたを、絶対に許さない!」
ソレがプルミエールの声だと理解した瞬間、圧縮された時間が開放される。同時に二十もの銃弾が、外からも内側からも模倣体の躰を貫いていった。
悲鳴を上げる暇も、踏み止まる素振りも見せず、模倣体はその場に崩れた。
勝敗は決した。致命傷を超えたダメージに加え、ポイズンに因る浸食。模倣体といえども、ダーカーに属するならば、このまま放っておいてもこの躰はフォトンへと回帰するだろう。
だが、プルミエールはそうしなかった。
模倣体の頭部あたりまで歩み寄ると、眼を合わせて銃を向ける。
強まった雨に乱れた髪で、模倣体は上手く彼女の表情を捉えられなかった。けれど、尚も雨に打たれ顔を濡らすその様はまるで――。
「残念だったね。ギルでも模してたのなら、勝てたかもしれないのに」
不意に向けられた言葉に、模倣体はソレ以上の詮索を止めた。無意味だからだ。自身の時間はもう終わる。
だからこそ、最後は敵らしく振る舞ってみせた。
「次はそうするわ――プルちゃん……」
模倣体がそう告げた瞬間、大きく雷が瞬き啼いた。そして同じく、プルミエールの指は、引き金を引き切っていた。
フォトンへと回帰していくその様を見ているのか、プルミエールは暫く微動だにせず立ち尽くす。
彼女が尚も向ける銃口の先にも、乱れた髪に隠れた視線の先にも、模倣体は疎かフォトンの残り滓も無い。
それでも、プルミエールは動かない。声も音も、銃声も無くなった森の小部屋で、唯々雨に打たれ続けた。
どれだけの時間が経ったのか、ソレは一人の介入に依って破られる。
プルミエールの背後から静かに歩み寄り、彼女の髪に分厚い布を被せた。
「――ユノ……」
その気配に、ゆっくりと振り返った彼女の眼に映ったのは、ユノ。同じ【ルシエル】に所属し、彼女にとって姉のような存在だ。
直後、プルミエールはユノの胸元へ顔を埋めるように凭れ掛かった。そんな彼女を、まるで赤子をあやすように抱き締めると、ユノは優しい声色で言葉を掛ける。
「私が模倣体だったらどうするの? 危ないわね」
「だいじょうぶだよー。もしそうだったら、もうわたし攻撃されてるもん」
「……酷い言われようねー」
悪態を衝かれながらも、ユノは笑ってプルミエールの言葉を流していく。代わりに、彼女を抱く力を強めた。
その顔が、誰からも見えないようにする為に。
「落ち着くまで、こうしてなさい。そんな顔じゃ、逢えないでしょう?」
「――うん」
雨は止む気配を見せず、寧ろ強さを増していくようにも思えた。
何かを誤魔化すように。誰かを誤魔化すように。姉の胸に抱かれた少女が濡らす頬を、洗い流すように――。
「ーーあなたは、誰?」
二人の少女が謳う、絆の物語。
勝手にイメージソング=『clover』:meg rock
前編:ここ
中編:読みに行く
ALL:まだ
《前書き》
いや、なんというか割と時間をおかずに次回作を書いちゃってます、すいません(´・ω・`)
なんか、書きたい衝動が物凄く強かったので、今の内に乘っておこうと想いまして。
よくあるネタをよくある内容で書き綴るだけのストーリーですが、楽しんで頂けたらと。
そもそも、前作が私にはスケール大き過ぎたんや!!
二人の少女が謳う、絆の物語。
勝手にイメージソング=『clover』:meg rock
前編:ここ
中編:読みに行く
ALL:まだ
《前書き》
いや、なんというか割と時間をおかずに次回作を書いちゃってます、すいません(´・ω・`)
なんか、書きたい衝動が物凄く強かったので、今の内に乘っておこうと想いまして。
よくあるネタをよくある内容で書き綴るだけのストーリーですが、楽しんで頂けたらと。
そもそも、前作が私にはスケール大き過ぎたんや!!
「ーー模倣体?」
歩調と傾げる首の動きに合わせて揺れる、青い尻尾を持つ少女が問う。その言葉の向き先には、同じく両サイドに赤い尻尾を靡かせる少女が居た。
二人の歩みを阻む扉を前で、歩行の動きと合わせて壁に備えられた認証機に、赤髪の少女はカードキーを通す。途端、ロック状態を示した赤色に点灯していたランプが、まるで二人の髪色を真似るように、青色へと替わる。
流れるような動きでカードキーを仕舞い、尚も歩みを続けながら背伸びをすると、赤髪の少女が声を発した。
「うん、なんでもダーカーがわたし達アークスのデータを基に造ったらしいよー」
「あ~。そういえばコフィーさんから注意連絡事項がきてたね」
「もう結構な被害も出てるみたい」
開かれた扉の向こうに展開されるチームルームへと、二人は会話を続けながら足を踏み入れる。
向かう先には、規模的に誇れたものではないが、小人数が座って談笑するのに充分なバーカウンターが在った。二人は自然体のままソコに腰掛けると、話を続けた。
内容は、近日噂が広がり始めている模倣体についてだ。
模倣体ーー先程の会話の中にでも出た、ダーカーが造り出したとされる、所謂クローン生命体だ。容姿、声は当然の事ながら、模倣元の衣服や武器までも完全に再現されているらしい。
そして、その模倣体に因る被害報告が急速に増えてきているのだ。
武器を再現している事から予想できるように、彼等はアークスに対し攻撃を仕掛けてくる。仮に任務中で遭遇した場合、自分達と同じアークスの姿恰好をしてーーだ。
極め付けに厄介とされているのが、その性質。
ベースとなるデータが在るからか個体差はあるが、その戦闘能力は強力で、非常に高い生命力を兼ね備えている。加え、至極好戦的。
コレは恐らく、ダーカーが元来より見せる攻撃的かつ破壊的な性質からに因るものだろう。とはいえ、報告の中にはこちらも個体差が在るという、見落とせないものも上がっている。
云ってみれば、元より好戦的な性質を持つ者が模倣体化された場合、より好戦的となっている。模倣元よりも更に高い基準の戦闘力を備えてだ。
ソレはつまり、本人よりも強い可能性が在る事を意味する。
模倣体に因る被害報告が減るどころか増えているのは、そういった単純な戦闘面に於いたものが絡んでいる。
「ーーでも最近、ちょっと違う報告も上がっててねー」
両足を交互にバタつかせながら、赤髪の少女が紡ぐ。その声色と口調とは違い、表情は何処となく暗く沈んでいるようにも見える。
「ーープルちゃん?」
プルーープルミエールの言葉を待っていたが、その様子がどこかおかしい事に気付き、青髪の少女が首を傾げる。
数瞬の沈黙。ルームに流れるBGMが逆に、静寂である事を強調した。
「あーダメだ、上手く言えないや」
やがて、プルミエールが自身でソレを振り払うように破る。その振る舞いに普段の彼女を見出してか、不安を抱いていた少女の表情にも、安堵が浮かぶ。
「ま、とにかくイーリスちゃんも気を付けてね。模倣体が造られる為の詳しい条件とかはまだ調べてる途中なんだけど、報告に上がってるアークスの殆どが、ダーカーの巣に乗り込んだ記録を持ってるんだよね」
「ダーカーの巣って……ああ、こないだ皆で参加した異常値を観測した宙域での作戦だよね?」
「そそ。わたしとイーリスちゃんは勿論だけど、ギルもユノもカイトも今のところ条件には当て嵌まってるからねー。ユノの模倣体なんて、想像しただけで逃げ出したいくらいだよ~」
「……怒られるよ?」
「じゃあ、オフレコで!」
そんなイーリスを更に安心させる為か、少し言葉多目に、そして多少大袈裟な調子でプルミエールが紡いだ。
詮索を打ち切った二人が、互いに眼を合わせて笑う。齢相応の少女が、そうし合うように。
「ーーあ、そうだ!」
ふと、何かを思い出したのか手を一つ鳴らして、イーリスが席を立つ。その足が向かったのは、カウンターの向こう側。
ソレを眼で追うプルミエールが問う。
「ーーどったの?」
バーカウンターとはいえ、バーテンダーなどは居ない。よって、飲食する際は持参してくるか、カウンター奥のクーラーボックスに保管しておいた物を取り出すかになる。
イーリスの目的は、そのクーラーボックス。
「えへへ。みんなで食べようと想って、ナウラのケーキ屋さんからケーキ買って冷やしてたんだ」
「……けー……き……?」
「うん、未だみんな任務中みたいだし、私達だけ先に食べちゃお」
にこやかな表情を浮かべながら、イーリスがクーラーボックスの扉を開いた、その時だ。
『プルーーイーリスも一緒か』
チームメンバー用のチャンネルに、通信が入った。
「ギル? そうだけど、クエスト中にどうしたの?」
プルミエールがその通信に応える。
ギルとユノ。そしてカイトは現在、アークス研修生のルベルトからの依頼で、惑星ナベリウスでの同行任務に当たっていた。三人の経験からすれば、総難易度の高いものではなく、事実そうであるからこそイーリスとプルミエールは別行動を取っているのだ。
そんなギルから、尚任務中の筈のギルからの通信。疑心を抱かない方がおかしい。イーリスも、開け掛けたクーラーボックスを閉じると、カウンターに身を乗り出すようにプルミエールの交信に耳を向ける。
『いや、珍しいものを見つけたんだがな』
「珍しいものーー?」
『ーータガミカヅチだ』
「おおっ!」
ギルの口から告げられた名前に、少女が二人顔を見合わせながら、同時に声を上げた。
ーータガミカヅチ。ラッピーと同じく、生態の詳細が不明とされる超時空生命体である。銀色に輝く身体で、電撃を操る能力を有しているという事が、一般的には知られている。しかし、その目撃情報は非常に少なく、その遭遇率はラッピーとも比較にならないとさえ云われる程だ。
所謂“レア”との対峙。アークスとして生業を立たせている者にとって、好奇心を仰ぐには充分過ぎる素材だ。
そしてソレは、二人にとっても例外ではない。
「いくいく、すぐ行く!」
「まだ大丈夫なんですか?」
『ああ、今は逃げられないよう四人で見張ってるところだ』
やや興奮気味に声を上げる少女二人に、通信越しでギルが応えていく。
『ーーこっちに着いたらポイントの詳細を報せるから、とりあえずなるべく早く来てくれ。いつまでもこの状態が続くとは言い切れんからな』
「はいはいー」
いそいそとアイテムパックの整理を行いながら準備をする二人の様子は、まるでピクニックにでも出発する際の幼子のようにも見えて。齢相応に合わせた言い回しならば、二人で買い物にでも出掛けるかのような、そんなノリを想わせる。
「よし、準備おっけー」
「私もできたよー」
興奮は治まるどころか、時間が経つにつれ更に高まっていく。目的が目的なだけに、或る意味では必然なのだろう。
足早にチームルームを後にする二人を見送る者は居ない。けれど、そうなったルームに流れるBGMは、またも逆にソレを強調した。
感情の籠った言葉(こえ)にしか表現できない証(なにか)。
静寂を否定する役割を持つ筈のBGMは、二人が確かに居たのだという証となって、誰も居なくなったルームで、静かに流れ続けるーー。
* * *
惑星ナベリウスの木々が成す、青々とした広大な森林。心地の良い陽射しにも照らされながら、ソレは続いていた。
* * *
惑星ナベリウスの木々が成す、青々とした広大な森林。心地の良い陽射しにも照らされながら、ソレは続いていた。
まるで、景色と不釣り合いな程に。
その先端には、一人の少女が立っていた。小さな両手に、これもまた彼女の容姿とは少々不釣り合いな、樹の幹によって模された大剣を携えて。
「ーーイーリスちゃん、ここにいたんだ……って、何コレ?」
ソコに、明るい声色が響く。
背後から名前を呼ばれ振り返ったイーリスの眼に、良く識る赤髪の少女が映る。
「プルーーちゃん……」
驚愕の声を上げたプルミエールの足下には、イーリスを追うかのように続く原生種の群れが並んでいた。数は軽く十を超えるが、何れも倒れたままピクリとも動かない。
生命活動を維持している個体は、その列の中には居なかった。
「コレ……イーリスちゃんが?」
プルミエールが当然の疑問を口にする。情景だけで判断するならば、答えすら決まっているようなものだ。
ソレでも彼女がそうしたのは、一種の願いだったのだろうか。
「うん、なんだか今日はやけにみんな凶暴になってて。ダーカーの浸食核の影響もあったのか知れないけど、私もやらなきゃ危なかったから」
なぞるような視線を原生種の群れ(れつ)を向けながら、イーリスが答える。その中には、確かに浸食核が植え付けられた個体も何体か見られる。
アークスならば、対ダーカーに於いて常識となっているこの核。コレに寄生・浸食された生物は理性を失い、非常に獰猛となり、敵味方は勿論同じ種族ですらも見裂かないなく襲い掛かる。云わば、“ダーカー化”するのだ。
しかも、この核に因る被害の最大の特徴はーー。
「そっか。じゃあ、仕方ないね……」
プルミエールが、納得したように頷く。
この核の最大の特徴。ソレは、現在のところ、浸食されたものを救う手立ては無いという事。正確には、核のみを取り除く事はできない。
そうした意味では、イーリスの取った手段は防衛行動とはいえ、被害者への唯一の救いだという意見も在る。
「そういえば、どうしてココに?」
何処か物憂げな表情で尚も群れを見詰めるプルミエールに、イーリスが問う。
コレも、当然の疑問。
一緒に行動していたのならまだしも、プルミエールは明らかに後を追って合流する形となった。互いの所在を確認する通信すらも無く、まるで突然現れたように。
「ーーへ? あ~。こっちの用事が終わったから、イーリスちゃんの手伝いしようと想って。迷惑……だった?」
そんなイーリスの問いに、プルミエールが答える。
眼を泳がせながらーーというよりも、眼を合わせる事を拒むように。
「……そうなんだ、ありがとう」
プルミエールの様子が、自身が識るソレと明らかに違う事実を受け止めて、イーリスは逆にプルミエールから眼を放さないまま言葉を紡いだ。
幽かに浮かべたその笑みと言葉に、プルミエールもつられて、か細く笑う。
「あっちの方に、標的が移動するのを見掛けたんだ。手伝ってくれる?」
「うん、まっかせてー」
腰からサーペントの紋章が記された、愛用の長銃を構えて、プルミエールが揚揚と答える。
プルミエールという少女は、決して鈍感なタイプではない。恐らくは、自身に向けられる幽かな疑心に気付いていたのだろう。ソレが払われたと認識したのか、その際の様子は普段の彼女と変わらないように見えた。
そうして二人は、イーリスが指した方向へと進んでいく。
道中では、原生種が二人に襲い掛かってきた。先程のイーリスの言葉通り、普段よりも攻撃的な個体が多い。まるで、“外敵”に対する完全な敵意と殺意を放ちながらだ。
尤も、どの惑星の原生種からすれば、アークスもダーカーも自分達の領域を侵す侵略者である事に、そう差は無いのかもしれないがーー。
* * *
少なくない交戦の果て、二人は目的地へと到着した。
* * *
少なくない交戦の果て、二人は目的地へと到着した。
ソコは、森が造り出した小部屋のような庭園。木々の隙間を縫って射し込む木漏れ陽が、緑をより際立てる。
「そういえばイーリスちゃん。何を狙ってるの?」
ふと、プルミエールが口を開く。
そう、ココに至るまで、彼女はソレを知らせていなければ、聞く事もなかった。交戦時の掛け合いを除けば、会話と呼べるものが在ったかすらも怪しい。
普段の二人からすれば、異常とも云える状態。
「その前に、私からも一つ訊いていい?」
「ーーへ? う、うん……?」
前を歩いていたイーリスが歩みを止め、背を向けたままでプルミエールに応える。
背中越しにイーリスが放つ何かに気付いたのか。プルミエールは歩みを止めたイーリスに対し、自身は二、三歩と後退った。
ソレが合図だったのか、イーリスは振り向き様に紡いだ。
「ーーあなたは、誰?」
刹那、木々が鳴いた。
そうさせたのは風だけではなく、イーリスがフォトンを開放した事に依る大気の変動。
剣を携え、構えてこそいないものの、その様子は完全なる臨戦態勢だった。尚も木々を薙ぐフォトンからは、明らかな薄暗い殺意を風が伝う。
目の前のプルミエールに向けた、イーリスの異常な行動。
ソレに呼応するかのように、木漏れ陽が影を帯びる。小部屋という木々が密集した条件下の中で、二人の周囲がみるみる曇っていく。
「~~~~い、イーリスちゃん、な……何言ってるの? ひょっとして、勝手にクーラーボックスのケーキ食べた事知って、怒ってるとか?」
そんな場の空気に呑まれてか、プルミエールは動揺を露わにし、更に後退る。
何を? いつから? 何故?
廻る、単純な疑問。しかし、ソレは受け止められる事はなかった。
イーリスに、プルミエールの言葉を聞く意が感じられなかったからだ。
「ーーっく……」
そして何より、当のプルミエール自身がソレを破棄した。
「~~~~くくく……っはは、あはははははは!!」
突如上がった笑い声。木々に反響し合うかのように、存在を強調する。
その高笑いは尚も続く。
腹を捩り、幼子のように感情を剥き出しにした、無邪気というよりも、素直な笑い。ココに至るまでの挙動を否定するかの如く、プルミエールは笑った。
笑ってーーみせた。
一人の少女が紡いだ、絆の物語。
勝手にイメージソング=『Our Fighting』:クーナ(喜多村英梨)
勝手にイメージソング=『Our Fighting』:クーナ(喜多村英梨)
vol.1:読みに行く
vol.2:読みに行く
vol.3:読みに行く
vol.4:読みに行く
vol.5:読みに行く
vol.6:読みに行く
vol.7:読みに行く
vol.8:読みに行く
vol.9:ここ
ALL:一覧
《今回の前書き》
さて、ホントの最後の前書き。ええ、終わりましたよ!!
盛り上がるところは無いかと思いますが、
お付き合いして下さった方は是非目を通していただけたらと思います。
イメージソングに『Our Fighting』を挙げているんですが、
防衛戦のシーンのラストなんかは、ちょっと2番の歌詞と合うように描いてみました(*'ω'*)
先の爆弾同様、何処か呆気なさすらも感じさせる決着。勝利を讃えるような、華やかな演出なぞ起こる素振りはない。
「お、終わった……?」
しかしソレでも、イーリスは安堵の声を漏らした。
拠点に取り巻く敵の姿はなく、最大級の凶兆を放っていたダークビブラスも、その亡骸はまるで煙のように霧散した。コレ以上の事は、もう起こらない。そんな、無自覚の決めつけからの安堵だった。
張り詰めていた緊張の糸が切れ、蓄積されていた疲労が一気に襲い掛かられたイーリスの躰が、銃座に前のめりに預けられる。訴える脱力感は相当なもので、暫くは動きを取れそうも無かった。
「ふぅ…………?」
重くなった瞼が、その視界を塞ごうとした刹那、イーリスは違和感に気付く。
今、彼女の眼が捉えているのは、躰を預けているフォトン粒子砲の末端部。腕で光を遮られている事を考慮すれば、ソコはまだ納得がいく。だが、足元はどうだ。
影が映るのであれば解る。けれども実際は、その影すらも見えない。
というよりも、この暗さはまるで影が全体を覆っているかのような――そんな暗さ。
「~~~~――っ!?
反射的にイーリスは上半身を起こし、顔を上げる。閉じ掛けていた瞼を開け、その眼が捉えたのは、未だ広がったままの赤黒い空の姿。
「そん……な――」
――未だ終わっていない。
イーリスがそう自覚するのとほぼ同時に、その声は上がった。
『皆さん、敵性――』
「西側に敵出現! 後方部隊、頼んだよー」
『~~~~私の台詞ー!?』
「さっきのお返しだよー」
場の緊張感――少なくともイーリスが感じた空気を否定するように、プルミエールとメリッタの通信が交錯する。イーリスが心境を整理も理解もし切れないままに、現実は着々と動きを見せていく。
プルミエールの言葉に従い、西側。つまり自身が居る正面へと視界を移したイーリスが視たのは、何度目になるかもしれない、夥しい程のゴルドラーダの群れ。
瞬間、反射的に粒子砲を構えようとしたイーリスだが、エネルギー不足を警告する表示に、その手を放す。
敵は怒涛の如く、相も変わらず真っ直ぐに突進してくる。現状、彼女がソレに対応するには肉弾戦しかない。しかし、緊張の糸を切ってしまった彼女には、直ぐに躰を動かすだけの反応を取れなかった。
ダークビブラスの対応に当たっていた四人は勿論、後方部隊も先の粒子砲照射の際に位置取りがバラけてしまっている。ゴルドラーダが拠点に到達するまでに援護として合流するには、まず不可能。そして、肝心の進行上に位置するイーリス自身が戦えない。
何度も潜り抜けてきた。何度も助けられてきた。ソレでも尚、絶望と窮地が襲い掛かる。
「――三機照準よし! ……撃てー!!」
そんな彼女を救ったのは、最後のその瞬間まで気付けなかった矛盾。
イカロスの声が通信に響いた刹那、粒子の柱三本が水平に戦場を伸びていく。
ソレは、先程確かに八其呼び出されながらも、発射されなかった三基に依る照射。しかし、イーリスにソレが判る筈が無く、彼女は唯、迫り来るゴルドラーダの群れを粒子の柱が薙ぎ倒していく様を見詰めていた。
自分が撃った時よりも永く、まるでスローモーションでも掛かったかのような、そう感じる時間間隔の矛盾。
それでも、実際は十秒程の短い時間で柱は消えた。ソコに居た筈のゴルドラーダの群れも、赤黒いフォトンの爆発を起こしながら、煙と伴に風に流れていく。
その間も無く、空が変化を見せる。赤黒く陰さえも作っていた不気味な空が、イーリスが初めに見上げた砂漠の惑星らしい青空へと変わった。
確かな証。勝利を讃える、決着を告げる確かな証だった。
『皆さん、お疲れ様です! 大勝利ですよ、大勝利!!』
補足するかのように、メリッタの明るい声色が通信越しに響く。ソレに呼応し、何名かの勝どきや音頭が続いた。今度こそ、戦いは終わったのだと、イーリスは実感を得る。
そんな中で、不意に取り戻した眩さで定まらない視界の中に映るものに気付く。ソレは、ダークビブラスが登場する際に目にした人らしい影。相変わらず、姿は疎か輪郭を捉え切れないが、ダーカーのソレとは違う影に好奇心を抱く事は、なんら不思議ではないだろう。
――が。
「――っと? ~~~~わわっ」
イーリスが腰を預けるフォトン粒子砲の銃座が、役目を終えた事でソケットに収納されていく。飛び降りるように慌てて場を離れた彼女だが、急を要した事と未だ続く脱力感から着地に失敗し、尻餅をついた。
小さくはない痛みに気を遣りながら、思い出したように再び空を見返した時には、もう影はソコには無かった。
誰(なん)なのか。他の者は気付いているのか。尚も詮索を止めない、好奇心だけが残る。
「おーい、イーリスちゃーん」
そこに、やや離れたところから自分を呼ぶ声が届いた事で、イーリスの視界は再び地上へと戻される。そうして捉えたのは、手を振りながら駆け寄ってくるプルミエール。
未だ表現の仕方が解らない感情に駆られて、残っていた好奇心は直ぐに消え去った。
彼女にとって、眼に映る少女の方が余程大事な事だからだ。
「やー、終わったねー。……どったの? 何処か怪我でもした?」
「あ、ううん。怪我とかじゃないんだけど、なんだか気が抜けちゃって」
「あー。イーリスちゃん、初めてだったもんねー。うんうん、確かにこの作戦は疲れるよねー」
そう時間を掛けずに到着したプルミエールは、一瞬、不安げな表情を浮かべたが、イーリスの応えを聞くと、今度は疲労を訴えるように肩を廻しながら渋い表情で云う。
コロコロと、可笑しいぐらいに表情を変える。言うなれば、感情に素直なのだろう。そんな少女が、イーリスは気になって仕方がなかった。
好奇心には違いないだろうが、その言葉で済むような、単純なものではない。もっと知りたい。もっと、解り合いたい。
欲求にも似た感情。しかし、やはり考えてもその解に辿りつく事はできなかった。そして、直にそうする暇すらもなくす。
「――まったく、年寄りくさい事言わないの」
「お前は毎度毎度はしゃぎ過ぎなだけだろう」
気付くと、プルミエールの背後にギルとユノが立っており、その更に傍らにはカイトとイカロスの姿も見える。少し逸らした視線の先で、残りの者がテレポータに消えていく様を捉えた。
その瞬間、作戦が終わったというのとはまた別の実感が湧く。
全員ではないのが少々寂しくはある。けれど、眼の前には仲間と伴に作戦をやり遂げたという実感と、証があった。
「~~~~あ、あの! プルさ……ちゃんにイカロスさん――だけじゃなくて、その……えと……」
ソレを手放したくなくて、直ぐに捉まえてみたくて。衝動に身を任せた結果、イーリスは声を発していた。
――が、上手く言葉にできない。元々こういった事に慣れていないのだ。勢いだけで乗り切るには、少々無謀だったとも言えよう。思い通りに言葉を紡げずに、しどろもどろする様が暫く続く。
そんなイーリスに野次を飛ばす者は誰一人として居らず、唯、彼女が言葉を紡ぐのを五人全員が黙って待っていた。
「う~~~~。み、皆さん、あ……ありがとうございました!」
どれだけ経ったのか。というには短い時間。恐らくは一分にも満たない時間で、緊張に耐え切れなくなったイーリスが吹っ切れるように紡いだ言葉だった。
赤面しながら、ソレでも真面目な表情を浮かべて自分達を見上げる彼女に、五人は一瞬反応を忘れる。
瞬きをする事なく見上げていたイーリスにとって、その一瞬は永くも感じた。やがて、“失敗した”という不安と羞恥が込み上げる。顔を赤面させる理由が、次第に変わっていくのを、彼女自身が自覚し始めたその時だ。
「あのね、イーリスちゃん。こういう時は――」
プルミエールが、言葉を投げる。
その声に、視線をプルミエールだけに移す。眩しい程の太陽が、彼女を背中越しに照らすせいで、上手く捉えられない。眼を細め、光を遮る事でハッキリした少女は、確かに笑っていた。
幾度となく、作戦中に見せてくれた笑顔。
「――お疲れ様。で、いいんだよ」
プルミエールが言葉を紡いだ時、イーリスはようやく気付いた。
自分に差し伸べられた、小さな手に。
導かれるように、そうするのが自然なように、イーリスはその手を取る。瞬間、重なり合った掌を熱が伝う。
プルミエールの体温か。それとも、別の何かか。ソレを考えるよりも先に、今度は手全体が力強く握られる。そしてそのまま、躰を引き起こされていく。
自分のソレと差のない大きさの手から伝う力強さと、尚も変わらない熱を感じながら。
唯、応えたくて。もっと感じていたくて、イーリスはその手を握り返し、言葉を口にした。
「――お疲れ様でした!」
* * *
キャンプシップに戻ったイーリスは、暫し余韻に浸っていた。
* * *
キャンプシップに戻ったイーリスは、暫し余韻に浸っていた。
初めての惑星。初めての、多数のアークス同士と協力しての大規模な作戦。初めて遭遇する敵。そして、初めての同世代の同性の友人――。
二時間弱。
もっと永く感じた。それ程、色々な経験をした時間だったのだ。
高鳴る胸の鼓動と、未だ冷めない手の熱を噛み締める。
思えば、開始前に不安しかなかった。そもそも、こんな作戦に参加するという事自体を、想定していなかった。普段通りだったなら、あり得ない選択だったろう。
そう思い返して、ふと気付く。
そうだ。今回の時間を与えてくれた人。今回の経験を得る機会を与えてくれた人。そんな機会にしり込みする自分の背を、押してくれた人がいた。
『――イーリス、お疲れ様でした』
「あ……こ、コフィーさん! お疲れ様です」
途端に、イーリスに向けて通信が入る。相手は、コフィー。現在に至る切っ掛けを与えてくれた人物だ。
とはいうものの、予想だにしていなかった状況に、思うように考えが纏まらない。伝えたい事はあるのに、やはり上手く言葉にできないでいた。
『初めての作戦だったにも拘らず、目覚ましい功績を立てたと報告を得ています。私も貴女を推した甲斐がありました。――ご苦労様』
そんなイーリスに気付いてかいないでか、コフィーは一方的とも言えるように続けた。
普段通りの、冷静な口調。言葉や声だけでは、掴み切れないのがコフィーという女性の心情だ。以前であったなら、イーリスもそうであっただろう。
「い、いえ……私一人の力じゃなくて、みんなが助けてくれましたから。――おかげで、いい経験が沢山できました。コフィーさん、ありがとうございました」
しかし、イーリスはコフィーの言葉に間髪入れず、そう答えた。一番伝えたい言葉は、ソコにすんなりと紡がれた。
――ありがとう。
言葉にした“みんな”の中には、コフィーも含まれているからだ。
『そうですか。では、今後もよろしくお願いしますよ、イーリス』
「――はい!」
その言葉に、コフィーからの通信は切れた。最後まで、彼女らしい冷静なまま。けれど、イーリスは確かに感じる事ができた。
言葉の裏側に浮かんだ、コフィーの表情(えがお)を。
手短な通信を終え、イーリスは身支度を整え始めた。いつまでも余韻に浸っている場合ではないと、気付いたからだ。
約束し合った。ロビーに戻って、また落ち合おうと、待ち合わせの約束を。
自分がどれだけの時間浸っていたのかは判らないまま、あたふたと先の作戦での報酬を整理していく。見慣れない物ばかりで面喰い、正直どれも気を引く物ではあるが、ソレ以上のものは、別にあった。
倉庫から離れると、何気なく自身の情報端末を開く。項目は、パートナーカードの一覧。
プルミエール。ギル。ユノ。カイト。イカロス。
先程、別れる前に交換し合ったものだ。そして、イーリスにとって作戦の報酬よりも勝る、価値など付けられないもの。
「――あれ? これって……?」
無意識に緩む口元を自覚する寸前、変わらず眺めていた一覧の中に、違和感を覚える。その正体は、彼女自身が未だ承認していない、相手側から送信されてきたパートナーカードの交換を訴える申請。
――ティミード。
見慣れない……いや。知らないと云い切れる名前だった。誰かに向けての誤送信か。そう想い、申請のメッセージ欄に目を向ける。
『お前みたいな危なっかしいやつ、見てるだけでイライラする。実力も装備もまだまだだ。俺の力が欲しい時は、とりあえず声掛けろ』
ぶっきら棒に、そして一見乱暴に見えるその言葉遣いには、見覚えがある。
そう、“みんな”の中に含まれている一人だ。ソレに気付いた途端、再び緩んだ口元から、今度は軽く声が漏れた。
慌てて、口を塞ぐ。
こんなところを本人に見られたら、何を言われるかしれない。その想いとは裏腹に、ソレを見てみたいと想う気持ちがあるのには、気付かないフリをして、イーリスは承認の欄をタッチする。
一覧に新たに整列された名前を惜しむように端末を閉じると、イーリスはキャンプシップの出口へと歩き出す。
その先の、待ち合わせた友人達の元へ向かう為に――。
『エピローグ』
人の姿も少なく、比較的落ち着いた穏やかな空気が漂うロビーに、その青年はいた。
『エピローグ』
人の姿も少なく、比較的落ち着いた穏やかな空気が漂うロビーに、その青年はいた。
紅に染められた研修生用の制服を纏い、ウェーブの掛かった金糸の髪から窺える表情には、明らかな不安が漂っている。
何度も自身の端末を見返しては、周囲を見渡す。外見から察するに、就任したばかりの新人アークスであるのは間違いなかった。
「――あの、何かお困りですか?」
ふと、唯おたおたするばかりであった彼に、声が掛かる。
薄い青色を施された、青年と同じ研修生用の制服。ソレに溶ける事を拒むように深い青色をした、後ろで束ねられた尻尾のような長い髪。
青年が声に振り向いた先で目にした、少女の外見だった。
自分と同じ新人か。服装からそう判断しかけた青年が、ふと少女の右腕に施されたフラッグに気付く。
透き通るような青空が描かれたそのフラッグは、チームに所属している証でもあった。
そっと、もう一度青年は少女を見やる。今度は、その顔を中心にやや上目に。
「私で良ければ、お助けしますよ?」
同時に、少女が紡ぐ。
青年が眼にした少女は、自信を携えた凛とした表情で、自分を見ていた――。
《あとがき》
最後の最後まで、この欄までご覧になって下さっている方々、本当にありがとうございます(*´ω`*)
タイトルの『fairy tale』や場面となった採掘基地防衛戦にしては、
壮大な冒険でもなくド派手な戦闘中心なものでもなく、肩透かしを喰らった方もいる事かと思います。
ですが、タイトルは最初にありますように、あくまでも主人公であるイーリスが描く物語全般を指すので、
『fairy tale』自体はまだまだ続いていくことでしょう。書くとは言ってませんが。
防衛戦に関しても、なんというか私が実際にゲームでプレイしての感想というか想いというか、
そういうのをそのまま表現してみました。
慣れもあるのでしょうが、実装当時とは明らかに違う、特に襲来に於いてもっと緊迫感・絶望感などを持たせられないか。
そもそも、フォトン粒子砲の存在がほぼ空気な現状には嫌気すら感じてますw
ソレを、この作品を通して書きなぐった次第です。
それにしても、最後の締めをどうするかで本当に悩みまして(´・ω・`)
個人的には、本編はキャンプシップの件ではなくその前で終えたかったのです。
しかし、エピローグはあのシーンと既に決めていて動かしたくはなく。
テンポが少し悪くなってしまいましたが、ツンデレさんの名前を出す意味も兼ねて、
キャンプシップの場面を書き足しました。まあ、コフィーさんとの絡みも書きたかったですしね。
気持ち程度のオリジナル要素を加えた内容でしたが、満足のいく内容と成りましたが。
ええ、400字詰め原稿用紙総枚数146枚となった本作品。
「書こう(*'ω'*)」と思い立った時には、30枚程度を予定しいたのですが、どうしてこうなった。
次があるかは、周りの反応次第ですかね。
あったとしても、ホントに次からは30枚程度に抑えるつもりですがw
ではでは、いつまでもダラダラと書くのも締めが悪いので、この辺で。
繰り返しになりますが、最後まで読んで下さった方々、本当にありがとうございました。
from:雛
《あとがき》
最後の最後まで、この欄までご覧になって下さっている方々、本当にありがとうございます(*´ω`*)
タイトルの『fairy tale』や場面となった採掘基地防衛戦にしては、
壮大な冒険でもなくド派手な戦闘中心なものでもなく、肩透かしを喰らった方もいる事かと思います。
ですが、タイトルは最初にありますように、あくまでも主人公であるイーリスが描く物語全般を指すので、
『fairy tale』自体はまだまだ続いていくことでしょう。書くとは言ってませんが。
防衛戦に関しても、なんというか私が実際にゲームでプレイしての感想というか想いというか、
そういうのをそのまま表現してみました。
慣れもあるのでしょうが、実装当時とは明らかに違う、特に襲来に於いてもっと緊迫感・絶望感などを持たせられないか。
そもそも、フォトン粒子砲の存在がほぼ空気な現状には嫌気すら感じてますw
ソレを、この作品を通して書きなぐった次第です。
それにしても、最後の締めをどうするかで本当に悩みまして(´・ω・`)
個人的には、本編はキャンプシップの件ではなくその前で終えたかったのです。
しかし、エピローグはあのシーンと既に決めていて動かしたくはなく。
テンポが少し悪くなってしまいましたが、ツンデレさんの名前を出す意味も兼ねて、
キャンプシップの場面を書き足しました。まあ、コフィーさんとの絡みも書きたかったですしね。
気持ち程度のオリジナル要素を加えた内容でしたが、満足のいく内容と成りましたが。
ええ、400字詰め原稿用紙総枚数146枚となった本作品。
「書こう(*'ω'*)」と思い立った時には、30枚程度を予定しいたのですが、どうしてこうなった。
次があるかは、周りの反応次第ですかね。
あったとしても、ホントに次からは30枚程度に抑えるつもりですがw
ではでは、いつまでもダラダラと書くのも締めが悪いので、この辺で。
繰り返しになりますが、最後まで読んで下さった方々、本当にありがとうございました。
from:雛
一人の少女が紡いだ、絆の物語。
勝手にイメージソング=『Our Fighting』:クーナ(喜多村英梨)
vol.1:読みに行く
vol.2:読みに行く
vol.3:読みに行く
vol.4:読みに行く
vol.5:読みに行く
vol.6:読みに行く
vol.7:読みに行く
vol.8:ここ
ALL:まだ
《今回の前書き》
終わる詐欺ですいませんw
いや、次でエピローグも載せて終わりますから(*'ω'*)タブン
ダークビブラスを倒す描写も、初めから決まってまして予定通りに描けました。
申し訳程度の戦闘描写もありますが、ソコはまあ目を瞑って下さい。
特にナックルとか使った事ないんで、PAの動きがサッパリわからないのですw
相変わらずまだ名前なしだし、彼……。
まあでもなんていうか、自分で書いといてなんですが、
今回で見せたイーリス(主人公)の変化が一番好きですね(´ω`*)
勝手にイメージソング=『Our Fighting』:クーナ(喜多村英梨)
vol.1:読みに行く
vol.2:読みに行く
vol.3:読みに行く
vol.4:読みに行く
vol.5:読みに行く
vol.6:読みに行く
vol.7:読みに行く
vol.8:ここ
ALL:まだ
《今回の前書き》
終わる詐欺ですいませんw
いや、次でエピローグも載せて終わりますから(*'ω'*)タブン
ダークビブラスを倒す描写も、初めから決まってまして予定通りに描けました。
申し訳程度の戦闘描写もありますが、ソコはまあ目を瞑って下さい。
特にナックルとか使った事ないんで、PAの動きがサッパリわからないのですw
相変わらずまだ名前なしだし、彼……。
まあでもなんていうか、自分で書いといてなんですが、
今回で見せたイーリス(主人公)の変化が一番好きですね(´ω`*)
いまいち実感の沸かないイーリスに、銃弾の残量が空になった弾倉が警告を訴え、機銃が鳴く。その声に、やっと状況を呑み込んだイーリスは引き金から手を放し、ゆっくりと銃座から降りた。
役目を終えた機銃が、ソケットに収納されていく。ソレでも、まだ実感は薄い。その彼女に確かな証をぶつけたのは――。
「やー、イーリスちゃん。お見事でした!」
――プルミエール。
両手の双機銃をその小さな手の中で器用に回転させながら収納すると、変わらない調子で声を掛ける。無邪気とも取れるその笑顔は、とても今しがた一つの窮地を脱したとは思えない程で。
「――あ、プル……ミエール……さん。ありがとうございました」
「も~。“プル”で良いってば。今のは減点ね」
「そ、そんな……。す、すいません」
だが、ソレがプルミエールだったからこそ、簡単に受け止められたのだろう。彼女がコレまで作戦の状況を管理・通達していたという事も大きいだろうが、ソレとはもっと別の何か。
言葉にするには、イーリスには未だ難しい何か。
「ま、いいや。それじゃ、イーリスちゃん。みんなに報せてあげて」
双機銃から長銃へと装備を切り替えながら、プルミエールが云う。
「――え? な、何を……ですか?」
イーリスが問うのは無理もない。彼女が理解するには、言葉が足りない。
そんな自身の非など気にも留めない様子で、プルミエールは答えた。
「そりゃ、爆弾処理完了のお報せだよー」
「わ、私がですか!?」
「もちろん」
「~~~~っ!?」
プルミエールの云う“勿論”が何をもってそうなのかも解らず、イーリスの疑問は益々肥大する。
先程まで、こういった伝達役はプルミエールが引き受けるものだと思い込んでいた。
そもそも、イーリスが使用した銃座の弾倉が空になった時間を逆算しても、あの時点でプルミエールが来なければ、どう考えても間に合ってはいなかった。であるならば、真に讃えるべきはプルミエールであり、役の流し合いなどではなく、単純に報告する権利を持つのも彼女ではないのか。
その程度は理解できる。だからこそ、ソレでも自分に報告させるだけの理由が在るのか。
困惑と疑心と焦りが混ざった心境に、僅かな解を求めるように、イーリスはプルミエールの顔を視た。
「――あっ……」
イーリスが漏らした声は余りに小さく、手が届く範囲での向かい合わせという状況でも、尚も起こる戦闘音に掻き消え、プルミエールには届かなかった。
求めたものは、得られなかった。しかし、視てしまった。
尚も笑顔を崩さずに、今は少し首を傾げて自分を見やるプルミエール。その額に光る汗を。
それだけではない。よくよく観れば、肩で呼吸をするのを誤魔化すように、乱れる呼吸を無理矢理に呑み込んでいる。
ふと、思い返してみる。
彼女は何処に位置取っていたか。彼女は、いつ自分の処へ向かう判断を下したのか。
イーリスは、イカロスが援護に向かおうとしていた事実を知らない。故に、ソレを材料に入れない思考となる。
イカロスとプルミエールは、そもそもの位置取りが別であり、武器故に後方援護を担っていたとはいえ、ダークビブラスと対峙していた彼女は、イカロスよりも遠い位置にいた。身軽さでプルミエールの方が走る速度が速いと仮定しても、そう差のあるものではなく、簡単に埋められはしない距離の差を有していた。
言い換えれば、イカロスが援護に向かえなくなったという事実を識り、その後から動いたのであれば、絶対にあのタイミングでは駆け付けられないという事。イーリスが耳にしたボムの存在を報せる通信。アレとほぼ同時に動いていなければ、成り立たなかった条件だ。
尤も、ソレがイーリスの為であるかは定かではない。イーリスの力では対処できないという判断からに因るものかもしれない。
「な、なんて伝えれば……いいんでしょう?」
けれど、こうしてプルミエールが目の前にいる事実が全て。理由の対象が何であろうと、全力で援護に向かってきてくれた少女に、イーリスは応えたくなった。
「――そうだねー。“爆弾処理無事に完了!”……とかでいいんじゃないかな」
「わ、わかりました。で、では……」
作戦用の通信に向けて、イーリスがついに声を出す意を決する。ほんの少し前、メリッタに対して割り込んだ時には無かった、途轍もない緊張。
当然だ。あの時は無我夢中だった。しかし、現在は違う。自分の意志を確と持って、仲間全員に言葉を届けなければならない。この作戦に身を投じて、もう何度目になるのか知れない初経験。
そんなイーリスから発せられた、プルミエールの助言をそのまま引用した言葉は――。
「――ば、爆弾処理、無事に完了ひまひた!」
――噛まれた。
沈黙……というよりも、静寂。まるで空気を読んだかのような無音が響く。とはいえ、時間にすればほんの数瞬だった。
イーリスが自身の失敗を自覚するその前に、音は還ってきた。
「――了解!」
「御意」
「了解よ」
「見事だ」
「……ふんっ」
多種多様の声。統一こそされはしなかったが、ソレは正しく応え。作戦に参加している人数からすれば数は足りないが、イーリスが行った行動に対する、確かな応えだ。
そう理解した瞬間、イーリスは自身の頬が火照るのを識った。先程の、報せを噛んだという失敗に因る羞恥からではない。
嬉しかった。自分に対して何かしらの応えがあるという、考えてみれば当然とも言えるそんな事象が、唯嬉しかった。
しかし、現実はその感動に浸る事を彼女に許さない。
「――プル、早く戻ってこい」
「~~~~あー、はいはい」
ギルの通信が入る。
そう、今は未だ作戦の最中であり、プルミエールは現在持ち場を離れている状態にある。後方援護という役を担い、彼女のグループは巨大ダーカーの応対に当たっている。ソコから抜けているという現状は、残っている者の負担を増す事を意味する。
「まったく、ギルはホントせっかちだねー」
ぶつくさと文句を零しながらも、プルミエールはしっかりと長銃を携えてリロードを行う。少女らしい外見や言葉遣いと態度に反して、こういった行動には抜け目が無い。
イーリスは、その仕草一連に素直に感心すら覚えた。
「さてと。じゃあ、わたしは戻るね。――大丈夫?」
リロードを終え、背中を向けると同時にプルミエールが問う。
何に対してなのか。またも言葉が足りない。けれどイーリスは、躊躇なく頷いてみせた。
「うん。すんごいの……出せるんでしょ?」
「――うんうん! もう少しだから、お願いね!」
二人が、同じ表情を浮かべて応え合う。齢相応の少女が、互いにそうし合うかのような笑顔。凡そ、場には不釣り合いな条件が、よりソレを映えさせた。
芽生えたものが在った。握ったもの、握られたものが在った。すぐにでも確かめて浸りたい衝動が無いわけではない。
今は、その時ではない。ただ、それだけの事。
だからイーリスは、プルミエールの背を眼で追う事もせず、再び戦場を駆け始めた――。
* * *
各々の位置で、戦いは尚も展開されていた。
東の青拠点では、三人ながらもユノがテクニックを駆使し敵の動きを止め、銃剣使いの青年と両剣を操る女性が、エネルギーの重鎮が完了したバリアを織り交ぜながら、貼り付いた敵に対応する。
ユノの広範囲に亘るテクニックでの補助と指揮に依り、東方面は多少のダメージを負いながらも、確実に迫りくる敵を減らしていく。
中央ではイカロスが中心と成り、見事に敵を殲滅させていた。
器用に大剣の上に乗ったかと思いきや、サーファー宛らの動きでゴルドラーダに突撃し、翻弄する。かと思えば、まるで剣閃で弧を描いての上昇しながら斬り付け。ソコから更に縦の回転により威力を増加させた叩き付けへと繋げる。
俊敏さこそ譲るものの、ギルやカイトに引けを取らない華麗な動きを見せる鬼神の如き鳥が、中央を守護していた。
「――脚、お願い!」
「応よ」
そしてダークビブラスと対峙する四名は、見事にその巨体の動きを封じていた。
プルミエールが脚に放ったウィークバレットに合わせ、装束の男が連打を加える。躰を振り子のように八の字を描き、腰の入った充分なパンチを五発。そして体重移動や遠心力をそのまま流れに乗せて、渾身の裏拳を叩き込む。
刹那、鳴き声すら上げる間もなくダークビブラスがその躰を地に伏せる。ダークラグネ同様、自らの巨体を支える脚が限界を訴えたのだ。
その姿が“王”を象徴するダークビブラスはソレを否定するように、直ちに態勢を戻そうとした。
しかし――。
「逃がさん!」
羽を広げ、空へと立とうとしたところへ、ギルとカイトが強襲する。
右翼側から、カイトは正に一瞬とも言える速さで距離を詰めると、ソコから連続で斬り掛かった。その剣撃が七つを数えると同時に、納刀。間髪入れずに抜かれた剣閃は×の字を描いた。
対してギルも左翼側から同様に、空中からその距離を一気に詰めたかと思うと、まるで羽を剥ぐかのような勢いでの斬り上げを放つ。そして、狙い通りかその浮き上がった羽に向かって連撃を繰り出した。躰全体を使ったその動きの一連は正に舞。先程プルミエールが双機銃を手にした際に見せたものとはまた異質の、激しくも神速で成される剣舞。
二人の剣閃が納まったその時、ダークビブラスの両羽根が宙を舞い剥がれ落ちた。
刹那、“王”が啼いた。
度重なる攻撃に因る痛みにか。それとも、羽を捥がれたという屈辱故か。どちらにせよ、ダークビブラスは動きを止め、攻撃の手すらも止めた。ソレでも、倒れたわけではない。滅したわけではない。
存命を訴える“王”の嘶きを通信が遮ったのは、そう間も無い事だった。
『フォトン粒子砲使用可能な分のエネルギーがチャージされました! 各所のソケットから計十二機を呼び出せます。あの巨大ダーカーを撃ち抜いちゃって下さい!!』
声の主はメリッタ。彼女が伝えたのは、アークスが用意でき得る最高峰の兵器。通信を耳にした後方で拠点の防衛に当たっていた者達が、散り散りにソケットへと足を向ける。
拠点に取り巻いていたゴルドラーダの姿は、最早無い。
「~~~~あー! それ、わたしが云いたかったのにー!!」
『わ、私だってたまにはオペレーターらしく決めたいんですよ!』
「なにをー!?」
一気に高まった緊張感を崩そうとでもいう風な、プルミエールとメリッタのやり取りが行われる。しかし、ソレに気を取られるものは誰もいなかった。
各自が順次にフォトン粒子砲を呼び出していく。その数が六つを数えた時、イカロスが声を上げた。
「イーリス、聞いての通りだ。もうエネルギーを集める必要はない。お前も粒子砲を構えろ」
「――え……は、はいっ!」
西側へと向かったイカロスが、メリッタの通信を受けて立ち止まっていたイーリスに言葉を掛ける。
云い終えるよりも先にソケットに接触していたイカロスは、一足先に粒子砲の銃座へと乗り込んでいく。ソレに続くようにイーリスが向かった最寄りのソケットは、奇しくも先程ビブラスの爆弾を処理する際に機銃を使った処だった。
唯ソレだけ。意味の無い偶然だ。当のイーリスも、何かを想い浮かべたのはほんの一瞬に過ぎない。
そうして、イーリスもフォトン粒子砲を呼び出した事により、その数は計八機。ダークビブラスと対峙している四名を除き、全員がその銃口をビブラスに向ける。
「照射準備が終わるわ。早くソコから離れて!」
ユノが呼び掛ける。
言葉通り、最後に呼び出したイーリスの粒子砲も、照射のチャージを終えた。あとはもう撃つだけだ。恐らくコレで終わるのだと、イーリスも無意識に実感していた。
ユノの声に応じ、ギル達四人が巻き込まれないようにダークビブラスから離れていく。
「おっまけー!」
粒子砲の射線上から退避する際に、プルミエールがダークビブラスの頭部にウィークバレットを放つ。
“王”の頭部に貼り付いた赤い印は、アークス達にとって照準と成った。
「――撃てえええぇぇっ!」
自分達の退避が完了したのと同時に、ギルが声を上げる。
刹那、大気を揺るがす程の轟音が鳴り響く。その正体は、粒子砲から放たれた凄まじいエネルギー。銃座に腰掛けている、撃った当のアークス達でさえ、その反動に態勢を崩され掛ける程だ。
フォトンが凝縮されたエネルギー波が、大気を貫き、そして照準としていたダークビブラスを貫いた。多方から発せられた“五つ”のエネルギー波は、それぞれ交差するように流れていく。
時間にすれば十秒にも満たない、短い時間。
「う……くっ……」
ソレでも、反動に耐えながらもイーリスは確と視た。
放たれたエネルギー波が、“標的”を捉える瞬間を。撃たれた“王”が、その威力に耐え切れずに崩れ、倒れていく一部始終を。
轟音が止むと同時に、粒子砲から放たれたエネルギー波の軌跡も消えた。直後、少し緩やかな地響きが伝う。
その正体は、ダークビブラス。
啼き声を上げる事もなく、最早原形を留めない躰が足下から崩れていく。そうして間も無く、“王”は戦場から姿を消した。
お茶の間
文読
暦
訪